こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
昨日腹巻きを礼賛する話を書いておいて少々のギャップが生じるのですが、今日は経営者の方向けでなく税理士事務所(会計事務所)の方向けに書いてみたく思います。
税理士事務所の方向けと言いますか、条文を読み出す時期の方向けです。
目次
所得拡大促進税制は更正の請求では受けられない
平成28年7月8日に東京地方裁判所(東京地裁)でとある判決が出ました。
それは「所得拡大促進税制は更正の請求では受けられない」という内容でした。
判決までの概要
どこまで転載していいのかわからないので、自分で翻訳した概要を載せます(^◇^;)
- ある会社が、確定申告のとき、所得拡大促進税制の適用を受けるのを忘れていた
- 後日別表などを添付して更正の請求をした
- 税務署「確定申告書につけてなかったんだからダメっすよ」と断る
- 会社「やだ。認めて」とごねる
- もめる
- 裁判所の答え「んー、やっぱ確定申告書につけてなかったんだからダメだよね」
- 控訴中
という流れです。
検索キーワードは「Z888-2018」なので、ご興味があり、TAINSに加入されている事務所の方は検索してみてください。
当初申告要件とは、適用額の制限とは
この争い自体は制度を知っている方なら「まあ、そっか、そうだよね」という内容なのです。
なんでかというと「条文に明記されているから」。
でも、私が事務所に勤めはじめたころはとてもそこまで達していなくて、まず抱いたのが「当初申告要件ってなに?」という疑問でした。
なので、簡単に2016年11月時点で知っておいたほうがいい内容を先にまとめます。
当初申告要件の概要
まず2つを知っておきましょう。
- 当初申告要件
- 適用額の制限
当初申告要件とは
当初申告要件とは、ざっくり言うと最初の確定申告のときに申告してない税額控除などを後から受けることはできないよ、ということです。
たとえば3月決算の会社があったとして、
- 5月に確定申告しました。
- 所得拡大促進税制の適用を忘れてました。
- 7月に気づいたので更正の請求をしても受けられない!
ということになります。
(まさに今回の事例)
適用額の制限とは
適用額の制限とは、ざっくり言うと最初の確定申告のときに申告してた数字以上の税額控除は受けさせないよ、ということです。
たとえば3月決算の会社があったとして、
- 5月に確定申告しました。
- 所得拡大促進税制で、税額上限額に達して20万円の控除を受けました(所得拡大促進税制そのものの控除額は50万円)。
- 後日税務調査が入りました。
- いくつか指摘され、税額が増えました。
- でも「最初の確定申告のときに申告してた数字」を基準とするので、元々の20万円しか控除を受けられません。
ということになります。
適用額の制限が緩和された
これが適用額の制限の考え方です。
で、平成23年12月頃改正が入り、税額の上限額に関しては緩和されることになりました。
- 税務調査が入りました。
- いくつか指摘され、税額が増えました。
- 税額は増えたものの、税額上限額も10万円上がり、修正申告で合計30万円の控除を受けることができました。
という感じです。
2016年11月現在の適用の整理
これが当初申告要件と適用額の制限の制度です。
で、2016年11月時点で言うと、
- 法人税法の税額控除などの当初申告要件は廃止になった
- さらに、法人税法の税額控除などは、一部適用額の制限も廃止された
- 租税特別措置法の税額控除は、当初申告要件が残った
- ただ、租税特別措置法の税額控除の、適用額の制限は緩和された
というのが状況です。
条文の書き方の違い
このへんの流れは国税庁の『いわゆる当初申告要件及び適用額の制限の改正について』を見たらわかるのですが、私が疑問に思ったのは、
実際の条文の表現のしかたをわかっておかないとこれから改正入ったときに困らないかしら
ということです。
この記事は、過去の自分が検索したときの「みんな国税庁のコピペしてるだけでわかんないよ!せっかくブログを書くなら噛み砕いてよ!」と思わず発した悲しみの咆哮に応えたい、という趣旨もあるのでそこも書いておきます。
法人税法の条文
上で比較がしやすいよう税額控除税額控除と言いましたが、受取配当等の益金不算入も緩和されています。
その条文を引用しますね。
8 第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により益金の額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。
出典:法人税法 第二十三条(e-Gov)
このように「修正申告書や更正の請求書に書類を添付すればいいよ」となっています。
最初の確定申告書への記載が漏れていても大丈夫、ということですね。上の所得拡大促進税制のような場合でも、受取配当等の益金不算入など法人税法に基づく規定であれば適用を受けることができます。
租税特別措置法の条文
次に租税特別措置法を見てみましょう。先ほどの所得拡大促進税制から引用します。
4 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。
出典:租税特別措置法 第四十二条の十二の四(e-Gov)
これを読んで、「あれっ?」って思いませんでした?
「こっちにも修正申告書や更正の請求書に書類を添付すればいいよって書いてない?」って思いませんでした?
(私は思いました)
「この場合において」以降が重要
もう一回引用して、色の位置を変えますね。
4 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。
出典:租税特別措置法 第四十二条の十二の四(e-Gov)
と、このように「この場合において」以降が大切で、「当該確定申告書等」にうんぬんと書いてあります。
この「確定申告書等」というのは、『租税特別措置法の確定申告書等の定義 期限後申告書を含むのか』で書いたように、
- 確定申告書(期限内申告書)
- 期限後申告書
- 仮決算をした場合の中間申告書
を指します。
つまりこの規定があるから、税額控除を受けられる金額は「最初の確定申告のときに申告してた数字(雇用者給与等支給増加額)」に限定されることになります。
また、緩和後のように制限されるのはあくまで「雇用者給与等支給増加額」のみで、税額の上限額については増えたら増えた分認めてもらえる、ということですね。
所得拡大促進税制の判例への当てはめ
これを上記の事例に当てはめますと、
- 確定申告書に雇用者給与等支給増加額の記載がなかった
- そのため更正の請求をしても元になる金額がなく、税額控除は受けられない
ということになりますね。
ただこれは文理解釈をした場合であり、主張まではあまり載っていなかったので、どういう主張をしたのかは気になるところです。
(文理解釈とは、みたいなのはそのうちまとめたいと思います)
当初申告の要件のまとめ
というわけで、
- 当初申告要件とは
- 適用額の制限とは
- 2つの条文の書き方の違い(「この場合において」以下で比較すると見やすい!)
について、自分の言葉でざっくりとまとめました。
あのとき悩んでいた私のようなあなたのお役に立てばこれほど嬉しいことはありません。
悩んだときは条文を読むようにしましょう。小難しいことは書いてありますが、求める答えがきっと書いてありますよ。
■ 関連記事
⇒『租税特別措置法の確定申告書等の定義 期限後申告書を含むのか』
⇒『クラウド会計でできることと、税理士業界に与える影響について』
◇ 谷口孔陛税理士事務所のサービスメニューはこちらから
https://www.kh-tax.com/menu/
◇「まずは一回だけ相談してみたい」という方はこちらから
https://www.kh-tax.com/consultation/