こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
「独立してみたけど、とりあえずはやっていけそうだな」
というある程度軌道に乗ってきた方に、私がおすすめしている節税につかえる制度があります。
その名も小規模企業共済制度。
どんな制度なのか、どんなメリット・デメリットがあるのか、を今回は解説していきたいと思います。
小規模企業共済の概要 どんな制度?
「小規模企業共済ってなに?」
という疑問にひと言で答えるなら、
小さい会社の経営者・フリーランスのための退職金制度
ということになります。
特にフリーランスは退職金を準備することができませんので、自分の引退の日に向けて節税しながら退職金を貯めておける、というのが最大のメリットです。
流れを簡単に示すと、
- 現役のときは掛け金を払って節税
- 引退するときにその掛け金が戻ってくる
という流れですね。
小規模企業共済のすごいところ① 全額所得控除を受けられる
小規模企業共済の一番すごいところは、払った金額が全額所得控除を受けられる、という点です。
「所得控除」ってややこしい言葉で好きじゃないんですが、僕が説明するときは「経費を増やせるイメージです」とお伝えしています。
この小規模企業共済に払った金額を、経費としてその利益から引くことができる、というイメージですね。
この小規模企業共済は最大年間84万円支払うことができますので、
- 年間84万円の経費を増やせる
- しかも退職金として積み立てておけている
という言い方だと効果がわかりやすいのではないでしょうか。
小規模企業共済のすごいところ② もらうときは退職金としてもらえる
そしてもらうときは退職金としてもらえる、というのもすごいところです。
一時期よく天下り問題が話題になっていましたが、あれは退職金としてお金をもらうと税金がかなり優遇される、という制度がある影響が大きいのです。
そのとても有利な退職金としてもらうことができる、というところも小規模企業共済のすごいところです。
小規模企業共済に加入できる人
といって誰でも加入できるわけではなく、「小規模」という名前のとおり規模に決まりがあります。
- 卸売業、小売業、サービス業である場合は、従業員の数が5人以下
- 建設業、製造業、運輸業、宿泊業、娯楽業、不動産業、農業などである場合は、従業員の数が20人以下
というのが大体の基準です。
まとめると5人以下ならまず大丈夫、特定の業種なら20人以下まで大丈夫、という感じですね。
(ちょっと省略しているので、詳細を知りたい方は中小機構のwebサイトへ)
小規模企業共済の掛け金 いくら払えるの?
先ほど「最大年間84万円払える」と言いましたが、掛け金は月額1,000円から70,000円までの範囲で自分で決めることができます。
つまり年間12,000円~840,000円が確定申告に与える影響の金額ですね。
(500円刻みで動かせます)
小規模企業共済は法人の節税策ではなく個人の節税策
それとちょっと勘違いしやすいのですが、小規模企業共済はあくまで個人の税金を減らせるものです。
なので法人の場合、法人そのものではなく,「登記された役員」が対象になります。
法人の税金が減るわけではありませんので、ここはごっちゃにしないようにしましょう。
小規模企業共済のデメリット3つ
というのが小規模企業共済の概要ですが、メリットより先にデメリットを3つご紹介しますね。
- 20年未満だと全額は戻ってこない(元本割れ)
- お金は出ていく
- インフレのリスクに対応できない
20年未満だと全額は戻ってこない(元本割れ)
まず20年未満で解約してしまうと全額が戻ってこない、というのがデメリットです。
小規模企業共済からお金を戻してもらう方法は次の2つがあります。
- 退職や廃業をして戻してもらう(本来想定しているもらいかた)
- 解約をして戻してもらう
途中でやめる場合はだいたいこの「解約」になるわけですが、
- 1年経たずに解約した場合 ⇒ 戻ってこない
- 1年以上20年未満のうちに解約した場合 ⇒ 80%~100%戻ってくる
- 20年以上払ってから解約する場合 ⇒ 100%~120%戻ってくる
という感じで、平たく言うと払った期間が長いほど戻ってくる金額が多くなる、ことになります。
(120%が限度。また、退職などの引退の場合は3年経っていれば100%戻ってきます)
表にしてみた
当サイト恒例の表にしてみました。
80%しか戻ってこなくても「即損した」にはならないので注意
80%と聞くと、
「損する可能性あるんじゃん!ムリムリムリムリムリ」
という拒否反応を示される方がまれにいるのですが、上にも書いたように払ったときに税金の控除が受けられるので、「80%=損」では決してありません。
ただそれは
- 控除を受けたときにどれぐらいの所得があったのか
- もらうときにどれぐらいの所得があるのか
で変わるので、その方に応じた計算が必要ということですね。
(65歳未満の方が解約すると一時所得というものになります)
元本割れへの対策
そうは言っても、やっぱり払う以上元本割れは避けたいのが人情というものも。
「でも払いつづけるのも苦しいしな…」
という状況になった場合はなるべく掛け金を減額して払いつづけましょう。
運用の面では不利になりますが、とにもかくにも払いつづけていればこの期間を延ばすことができます。
(上にも書いたように最低月1,000円まで下げられます)
小規模企業共済の掛け金は途中で増やすことも減らすこともできます。
そのときの状況に応じて柔軟に対応しましょう。
(昔は下げにくかったのですが、2016年4月に改正があり減らしやすくなりました)
お金は出ていく
次のデメリットは「お金は出ていく」というもの。
ほかの節税にも通じますが、解約ができるとは言っても「お金に困ったからすぐ返して」というわけにはいきません。
(解約のほかに後述する貸付という制度もあります)
上にも書いたように、苦しいときは減額するなどして資金繰りに注意することは必要です。
インフレのリスクに対応できない
次のデメリットは「インフレのリスクに対応できない」です。
これはもうどうしようもないですね。
インフレには分散投資で備え、この制度は別のものと割り切ることも必要です。
小規模企業共済のメリット5つ
デメリットが終わったのでメリット5つをご紹介します!
- 全額所得控除を受けられる
- 退職金としてもらえるし、もらい方を選べる
- 苦しいときなどに貸付を受けることができる
- 法人成りしても引き継げる
- 民間の会社よりはつぶれる心配が少ない
全額所得控除を受けられる
上の「すごいところ」でも書いたように、払った金額が全額所得控除を受けられる、というのは非常に大きなメリットです。
生命保険だと8万円払っても4万円しか控除できなかったり、いくら払っても最大でも12万円だったりとすぐに上限が来てしまいますからね。
- 最大で年間84万円の経費を増やせる
- しかも退職金として積み立てておけている
というイメージで考えておきましょう。
退職金としてもらえるし、もらい方を選べる
これも上に書きましたように、「退職金としてもらえる」というのも大きなメリットです。
退職金としてもらうと税金がかなり優遇されますので、退職金なんてないフリーランスの方には特におすすめしたいところ。
また、退職金として一気にもらうのではなく、分割してもらうこともできます。
その場合は年金と同じ扱いになり、こちらも普通にもらうよりは有利なのですが、私は事情がない限り退職金をおすすめしています。
苦しいときなどに貸付を受けることができる
小規模企業共済がいい制度であるとは言っても、デメリットでも書いたようにお金は出ていきますので、資金繰りに困る場面が出て来る可能性はあります。
そうしたときにいままで払った金額の範囲内で貸付を受けることもできます。
もちろん利息はかかりますが、いざというときにはお金を借りることもできるので多少安心です。
法人成りしても引き継げる
先日こちらを提案したお客さまから、
「でもそのうち法人成りする予定だからなあ」
ということを言われました。
(「法人成り(ほうじんなり)」というのは、個人事業をされている方が法人をつくってそこに事業を引き継ぐことです)
でもそのつくった法人が、上に書いた条件に該当する小規模な会社なら小規模企業共済も引き継ぐことができます。
そこで強制解約、というわけではありませんので、法人成りを検討されている方は覚えておきましょう。
(そこで戻してもらうことを選択することもできます)
民間の会社よりはつぶれる心配が少ない
これはデメリットにしようか迷ったのですが、
「そうは言っても潰れちゃってお金が戻ってこない可能性もあるんじゃないの?」
という疑問があります。
それを言うと日本という国であっても破綻する可能性がないものはありません。もちろん潰れることはあり得ます。
ただこの小規模企業共済を提供している「中小機構」は独立行政法人という半分お国の機関(経済産業省の所管)ですし、この小規模企業共済は国としても推進しているものですので、万一のことがあっても救済される可能性はあるでしょう。
ただまあ民間の会社よりは潰れる心配は少ない、という程度です。
いずれにせよインフレのリスクなども踏まえて総合的に判断するようにしましょう。
(仕組み的にはこんな感じです)
まとめ
というわけで、
- 小規模企業共済の概要
- 小規模企業共済のデメリット3つ
- 小規模企業共済のメリット5つ
をまとめてみました。
いろいろ書きましたが、私としては「全額所得控除を受けられる」「もらうときの税金の優遇が大きい」の2つは本当に大きなメリットだと考えています。
特にフリーランスの方で、軌道に乗ってきて今後もつづけていけることが見えてきた方はぜひ検討してみてください!