『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは①』で特別損失にするとどうなるかや、メリットデメリットを解説したのに引き続き、具体的にどんな費用が特別損失として計上できるのか、まとめていきます。
貸倒損失
メリットデメリットのところでも言及しましたが、貸倒損失も特別損失として計上できることがあります。
と、その前に念のため貸倒損失とはなんなのか、もざっくり説明しておきます。
貸倒損失とは
貸倒損失で「かしだおれそんしつ」と読みます。
これは簡単に言うと、
- 自社がA社に商品を掛けで売ったり(売掛金)、お金を貸したり(貸付金)する。
- その売掛金を支払ったり、お金を返したりする前にA社が倒産などしてしまう。
という状態になったときに、「もうお金が回収できません」といって費用にすること、が貸倒損失を計上するということの意味です。
売上を計上していれば(必ずではありませんが)その分の税金が発生してしまっていますし、渡してしまった商品は多くの場合戻ってこず、その原価もむだになってしまいます。
お金を貸した場合も、その分のお金が会社から出てしまっています。
会社にとっていいことは一つもありませんので、この貸倒損失は経営上なんとしても避ける(減らす)努力をしなければなりません。
問題点
この貸倒損失は税務署が認めにくい、という問題があります。
「認めにくいも何も倒産しちゃったらしょうがないじゃん」という話なんですが、会社の決算書にこの貸倒損失が計上されているだけだと、
- その会社が倒産などしてどうやっても取れない状態なのか
- まだ倒産というほどではないけど会社が苦しそうだから温情で取らずに済ませてあげたのか
- 社長がただしつこく催促したくないから「もう取らなくていいや」と判断をしたのか
がわかりません。
あんまり細かい話をここでするとますます長くなってしまうので今度に回しますが、税務署が「貸倒損失として費用にしていいよ」と認めるのは、
一番上の「倒産などして(もしくは倒産寸前で)どうやっても取れない状態」のときだけなのです。
貸倒損失はよく揉める
税務署からしたら「もっと頑張れば回収できるでしょ」と言って否定しやすいので、注視されますし、税務調査で非常に争いになりやすい勘定科目なんですね。
なので特別損失にすることによって、最も税務調査のリスクを高めるのがこの貸倒損失、といってもよいでしょう。
(まあ販売費及び一般管理費に計上したらごまかせる、というわけではまったくありませんが)
多分税理士に「特別損失にできないか」と相談したときに一番嫌がられるのも、この貸倒損失だと思います。
私の場合、貸倒損失は状況の確認や書類整備が大事だと思っているので、あとは
・経営者の方がどうしたいか
・当期の業績と来期の見込み
・貸倒損失の金額
などを総合的に考えてご提案するようにしています(時々本当に心の底から税務調査を嫌がる方もいらっしゃるので。もちろん好きな方はいないのですが)。
どんなときに特別損失として計上できるのか
というデメリットを踏まえたうえで、どのようなときに特別損失に計上できるのか。
それはほかのものと同じく、
- 毎期発生するようなものでなく、一時的に発生したもの
- 金額が大きいもの
が特別損失になります。
これもいくら以上ということでなく、その会社にとって大きい金額かどうか、という基準で判断します。
根拠
これは「中小企業の会計に関する指針」という、中小企業向けの会計基準にのっています。
(中小企業の会計に関する指針について詳しくはこちらに書きました → 『中小企業の会計に関する指針って何? 適用するメリット3つ』)
17.貸倒損失
[中略]
(3)損益計算書上は、債権の区分に応じて次のとおり表示する。
① 営業上の取引に基づいて発生した債権に対するもの・・・販売費
② ①、③以外のもの ・・・営業外費用
③ 臨時かつ巨額のもの ・・・特別損失中小企業の会計に関する指針
本社や事務所の移転費用
次は本社や事務所の移転費用です。
人が増えて手狭になったり、固定費を削減するために安い物件に移ったり、本社や事務所を移転することありますよね。
これも毎年お引っ越しされる会社さんはそうないと思いますので。
- 毎期発生するようなものでなく、一時的に発生したもの
- 金額が大きい
という条件を満たせば、その費用は特別損失として計上することができます。
勘定科目としては「本社移転費用」「事務所移転費用」などが比較的多いですね。
事業の撤退や、店舗の閉店の費用
新規事業を始めたものの、思うように広がらず撤退をしたり、店舗を開いたものの採算が取れず閉店したり、会社を経営していればそのようなうまくいかない時期は必ずあります。
むしろその撤退の判断をどれだけ早くできるか、それも経営者の資質の一つでしょう。
失敗を認めたくなくてずるずるいってしまうと、より損失は拡大してしまいます。
そのようなときも、やはり
- 毎期発生するようなものでなく、一時的に発生したもの
- 金額が大きい
という条件を満たせば、その費用は特別損失として計上することができます。
店舗の閉店は特にそうですが、減価償却が終わっていない内装工事などの固定資産除売却損や、解体費用、原状回復工事の費用、解約の違約金など、閉店に関する費用はまとめてしまっても問題ありません。
また、これをまとめることによって「選択と集中を行った結果不採算事業から撤退し、利益が出せる事業に経営資源を注入しました。これにより今後は収益力をアップさせます」などということも銀行向けに言えたりします(もちろん実態が伴っていないとだめですが)。
勘定科目としては「事業撤退損」「事業整理損」「店舗閉鎖損失」などが比較的多いですね。
また少し状況は変わりますが、事業の見直し・組み直しをして、費用をかけて再編するときは、「事業再編損」なども使えます。
まとめ
というわけで今回は
- 貸倒損失
- 本社や事務所の移転費用
- 事業の撤退や、店舗の閉店の費用
の3つについて解説しました。
まだまだあるのでちゃんと終わるのか不安になりつつ次回に続きます。
(まとめ終わったら各回の末尾に目次のようなものつくります)
■ 記事のまとめ
・『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは①』
・『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは②』
・『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは③』
・『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは④』
・『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは(番外編)』
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<あとがき>
・セミナーがあったので初めて西葛西駅に行きました。お店多くていいですね。