こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
昨日の『移動できるのは売上だけじゃない! 借入がある会社は収入を見直そう』の記事で、貸倒引当金について少し言及したので、基本的な知識をまとめてみました。
なお、当記事は主に資本金1億円以下ぐらいの中小企業を前提としておりますので、ご覧いただく際はご留意くださいませ。
目次
貸倒引当金とは(概要)
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)というものがあります。
これはざっくり言うと、「売掛金や貸付金が回収できなかったときのために積み立てておくもの」というイメージのものです。
ただ
- 不渡りを出している会社でもなければ「実際いくら回収できないか」は事前にはわからない
- いくら積み立てようと、税法では一定額(しかも結構小さめの金額)しか認めてくれない
というような事情もあり、この貸倒引当金を計上している大半の中小企業は、この税法で決められた「一定額」に合わせて計上をしています。
(※)引当金そのものの考え方については『決算決算というけれども具体的に何をしたらいいの? 決算の基礎知識②』の「引当金の検討」という項目にざっくり載せています。
貸倒引当金の読み方
特殊な言葉だから読み方わかりにくいですよね。
先に関連する言葉の読み方をご紹介しておきます。
- 貸倒引当金(かしだおれ ひきあてきん)
- 貸倒引当金繰入(かしだおれ ひきあてきん くりいれ)
- 貸倒引当金戻入(かしだおれ ひきあてきん もどしいれ)
(※)「戻入」は「れいにゅう」とも読みますが、貸倒引当金とくっつける場合は「もどしいれ」が一般的です。
まず種類で分ける
「実際いくら計上できるの?」の前に、その売掛金や貸付金が、
- 回収できない危険性がかなり高いもの
- まあそこまでじゃないもの・全然問題ないもの
の2つに種類を分けます。
これがどちらの種類になるのかによって、いくら計上できるのかが変わってきます。
個別評価金銭債権とは
「回収できない危険性がかなり高いもの」を個別評価金銭債権といいます。
これに該当するものは、具体的には、
- 更生計画認可や再生計画認可の決定があったもの
- 債務超過の状態がある程度の期間継続していて、もう事業が好転する見通しがないもの
- 更生手続開始、再生手続開始、破産手続開始等の申立てがあったもの
などですね。
一括評価金銭債権とは
これに対し「まあそこまでじゃないもの・全然問題ないもの」とは、簡単に言うと「回収できない危険性がかなり高いもの」以外の売掛金や貸付金全部です。
たとえば3月決算の会社さんで、「4月にはもう入金されたよ」という絶対安全な売掛金があったとしても、3月末時点で回収できるか不明であれば、この一括評価金銭債権に含めることができます。
一定額っていくら? 法定繰入率とは
今回一般的な貸倒引当金の話をしますので、以下「一括評価金銭債権」に絞って話を進めます。
この一定額、正しくは「法定繰入率」といって、法定という名前のとおり税金の法律で率を決めているからこんな名前なんですね。
これは業種ごとに違っていて、次のように決められています。
卸売業、小売業、飲食店 | 1.0% |
製造業、修理業、電気ガス水道業 | 0.8% |
金融業、保険業 | 0.3% |
割賦販売小売業等 | 1.3% |
その他(上のもの以外全部) | 0.6% |
一般的な会社さんとしては赤文字の、1.0%、0.8%、0.6%、が多いですね。
なので、たとえば多くのサービス業は0.6%になりますので、売掛金が1000万円あったら、
1000万円 × 0.6% = 6万円
で6万円しか費用にできないわけです。
少ない!
売掛金や貸付金だけ?
話を簡単にするために「売掛金」「貸付金」という代表的なものを挙げましたが、そんなことはありません。
たとえば、
- 取引先などに対して立て替えてあげていて、回収する予定のお金
- 貸付金の利子でまだ入金されていないものなどのうち、収益として計上されたもの
- 通常の受取手形のうち、割引手形や、裏書譲渡したもの(決算書に注記が必要)
なども認められます。
また、逆に
- 保証金や敷金
- 預金の利息や、配当の未収金
- 仕入割戻しの未収金
などは認められません。
(なお思いっきり意訳しておりますので、正確な範囲を知りたい方はリンクの国税庁通達もご確認を……)
(余談)もうちょっとだけ詳しく
概要を理解したいだけ、という方はここは読まなくて大丈夫です。
種類の分け方
個別評価金銭債権、一括評価金銭債権は「法人税法」という法律で決めた分け方です。
会計的には「一般債権」「貸倒懸念債権」「破産更生債権等」に分けて、それぞれで繰入額を計算するのが正しいやり方です。
ただ会計的なやり方だと計算が大変ですし、「中小企業の会計に関する指針」で法人税法の規定による分け方も認められていますので、中小企業であればこちらでも問題ありません。
(「中小企業の会計に関する指針ってなに?」という方は『中小企業の会計に関する指針って何? 適用するメリット3つ』をクリック!)
法定繰入率
これも話を簡単にするために法定繰入率だけ説明しましたが、一括評価金銭債権の計算にはもう一つ方法があり、「貸倒実績率」というものもあります。
この貸倒実績率は「その会社が過去3年で実際に回収できなかった金額」をもとに計算します。
ただ当記事が対象としている小さめの規模の会社さんはそう毎年出ないでしょうし、法定繰入率と比較してそれほど有利になるようなものでもありませんので、ある程度の金額の貸倒が発生している会社さんだけ検討するようでも問題ないでしょう。
法律のちがい
貸倒引当金や貸倒実績率は法人税法で定められていますが、法定繰入率だけは租税特別措置法で定められていて、法律がちがいます。
条文を調べるときは注意しましょう。
貸倒引当金の処理方法
最初の年
さて、貸倒引当金の処理方法自体はとても簡単です。
仕訳の話になってしまいますが、最初の年は、
- 貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金
の処理をするだけです。
なお、通常、
・貸倒引当金繰入額 ⇒ 販売費及び一般管理費
・貸倒引当金 ⇒ 資産のマイナス
で処理します。
(貸倒引当金繰入額は、営業とは関係のない貸付金等だった場合は営業外費用や特別損失で処理します)
2年目以降
2年目以降、つまり去年積み立てた金額が残っている場合、処理方法が2種類あります。
仮に、
- 1年目に10万円計上
- 2年目に20万円計上
したとして、それぞれの処理方法を見ていきましょう。
洗替法
1つが洗替法(あらいがえほう)です。
法人税法ではこのやり方を前提としています。
これは、去年と今年の分を入れ替える(洗い替える)やり方です。
具体的には
- 貸倒引当金 / 貸倒引当金戻入額 10万円(去年の分をリセット)
- 貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金 20万円(今年の分を計上)
という処理をします。
差額補充法
もう1つは差額補充法(さがくほじゅうほう)です。
これは、去年と今年の差額だけ計上するやり方です。
具体的には
- 貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金 10万円(10万円-20万円=-10万円)
という処理をします。
どっちがいいの?
もし「どっちがいいの?」という疑問を持たれた場合、これは間違いなく差額補充法です。
理由として、次の2つが挙げられます。
- 第一に正しい。
- 何より営業利益と経常利益がよくなる。
なんで利益がよくなるのか
洗替法で書いた「貸倒引当金戻入額」、これは通常特別利益として計上されます。
そのため、『移動できるのは売上だけじゃない! 借入がある会社は収入を見直そう』でさらっと書いたように、
- 特別利益 20万円
- 販売費及び一般管理費 10万円
と分けて計上することになり、この差額、10万円分の営業利益と経常利益が悪化してしまうんですね。
こんな処理一つで大切な営業利益と経常利益を悪化させる必要はありませんので、差額補充法を選ぶようにしましょう。
根拠
念のため、なぜ差額補充法が正しいのかという部分について、根拠を載せておきます。
貸倒損失・貸倒引当金
要点
貸倒引当金の計上は、差額補充法によることを原則とし、法人税法上の洗替法による繰入額を明らかにした場合には、法人税法に規定する洗替法による処理として取り扱うことができる。中小企業の会計に関する指針(H28.1.26改正)
まとめ
というわけで、
- 貸倒引当金とは
- 種類の分け方
- 計算方法
- 処理方法
についてまとめました。
ややこしい!と思われた方は、「とにかく前期と当期の差額を計上する」とだけ覚えておいてもらえれば大丈夫です。
また、自社の現在の処理が合っているのかを確認したい方は、
- 貸借対照表に貸倒引当金が載っているか見る
- 載っている場合、特別利益に「貸倒引当金戻入」がないかどうかを見る
の2点をしていただいて、載っていれば残念な処理になっている可能性が高いです。
(ただ会社さんに税額が出ているか、借入があるかなどの状況によって判断が変わることはあります)
本当は貸倒引当金の処理方法についてもう少し踏み込みたかったので、可能であれば近日中にもう一度更新したいと思います。
→ 2016.8.19更新『貸倒引当金戻入は特別利益じゃない!? 最新会計処理を解説!』
⇒ 【目次ページ】超入門編のブログ記事一覧
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