先日の『おかしな貸借対照表を見直して評価を上げよう!(負債編)』の記事で、貸借対照表の負債を見直して、「流動比率」という指標を改善する方法についてまとめました。
今回は資産編です。
基本的な考え方
おさらい
『大切だけどアテにならない!? 流動比率とは』で、流動比率について書いたことを改めてまとめます。
- 資産と負債は1年以内を大まかな基準として「流動」と「固定」で分ける(注1)
- 流動比率は「流動資産 ÷ 流動負債」で計算する
流動比率を改善するために
なので、流動比率を改善するためには、
- 流動資産を大きくする
- 流動負債を小さくする
の2点を考えつつ貸借対照表を見直していけばいいわけです。
これをもっと具体的に言うと、
- 固定資産のなかに、流動資産に持ってこれるものがないか探す
- 流動負債のなかに、固定負債に持っていけるものがないか探す
というのが、流動比率を改善するうえでの基本的な考え方になります。
(注1)厳密には、売掛金・買掛金等は1年以上経ってから回収されるものでも流動資産・流動負債になります。正確な意義は「正常営業循環基準」で検索すると出てくるよ!(人任せ)
(注2)もちろん、会計基準の範囲内で見直さないと「でたらめな決算書つくりやがって」と思われてしまうのでなんでもかんでもは無理ですよ。
流動資産に持っていけるものを探す
それでは具体的に「ここを探したほうがいい」というポイントをまとめていきますが、正直に言って負債のほうが多いし影響も大きいです(^_^;)
ただまれに該当する会社さんがありますので、その場合はなるべく早く直してしまいましょう。
役員への貸付金
ただ単に役員への貸付金があるだけではだめで、その貸付金の全額が「長期貸付金(固定負債)」として処理されていることが前提となります。
この場合、できれば毎月の返済額を決めて、給与から天引きするような方法をとり、貸付金を減らしていくことを目指しましょう(理由は後述)。
そうすれば、来年返済する分は短期貸付金(流動資産)に移すことができ、流動比率がよくなります。
役員への貸付金がよくない理由
1.利息が発生する
会社が役員にお金を貸している場合、借りている場合とはちがって原則的に会社は社長から利息をとらなくてはなりません。
これは、「お金を貸す」ということは「お金を運用する(銀行に預けたり株や投資信託を買ったりするのと同じ)」という行為であるからであり、
- 会社 … 会社というものはそもそも利益を得るための組織なので、お金を運用しているのに利息をとらないのは会社の目的から考えておかしい
- 個人 … 個人のお金なんだから利息をとってもとらなくても好きにすれば(鼻をほじりながら)
というちがいがあるためと言われています。
なお、会社が社長からお金を借りている場合も、そこそこの利息をもらうこと自体はできますが、社長はその利息を確定申告しなくてはならなくなるので注意しましょう。
2.印象がとにかく悪い
銀行はとにかく役員への貸付金を嫌います(というかよっぽどの理由がないかぎり貸付金全般を嫌います)。
これは銀行が
「うちが会社に貸したお金が社長個人に流れてるわけ?うちが貸したのは会社の経営を信用したからであって、社長にお金貸した覚えはないんだけど?」
と考えるためです。
また、これはもし私が税務署の調査官だった場合ですが、社長への貸付金があったら「この会社は、会社の財布と社長個人の財布がきちんと分かれてないんだな。叩けばなんか出てくるだろ」と考えます。
どこに対してもいい印象を与えることはまずありませんので、営業上やむを得ない場合以外、貸付金は発生させないようにしましょう。
長期前払費用
長期前払費用という勘定科目があり、たとえば火災保険を5年分払った場合など、複数年分をまとめて支払った場合に、この「長期前払費用(固定資産)」というものが出てきます。
これを1年ごとに、その年の分だけ少しずつ費用にしていくわけですね(減価償却と似ています)。
この長期前払費用のうち、来年費用にできる分は「前払費用(流動資産)」に移すと流動比率がよくなります。
銀行の保証料などでそれなりの金額を移せることもありますが、ただ正直大した金額にはならないことも多いので、そこは手間との見合いになります。
(参考)有価証券
社歴の比較的長い会社さんだと、銀行や取引先との関係でそこの株式を買うようなケースが時々出てきます。
この場合、この株式ってそう簡単に売れるようなものでもありませんので、税理士事務所によってはこれを「投資有価証券(固定資産)」で処理することがあります。
これは私の個人的な考えですが、これが最終的に売って利益を得ることを目的としている株式なのであれば、「有価証券(流動資産)」として処理できる場合もあると考えています。
有価証券の分け方
税理士事務所向けのちょっと小難しい内容になってしまいますが、会計基準にもとづいてそれぞれの意義を並べると、
- 固定資産の投資有価証券 … 売買目的有価証券等以外のもの
- 流動資産の有価証券(売買目的有価証券) … 時価の変動により利益を得ることを目的として保有するもの
というようなことになっています。
会計基準上では「短期的に」というような文言は入っていませんので、「最終的に利益を得る目的で持っている株式」であれば、貸借対照表上流動資産として表示してもおかしくないのでは、というのが私の考えです。
以下に会計基準を引用します。
2.有価証券
(1)売買目的有価証券
15. 時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(以下「売買目的有価証券」という。)は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
(4)その他有価証券
18. 売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券(以下「その他有価証券」という。)は、時価(注7)をもって貸借対照表価額とし、[後略]
(7)有価証券の表示区分
23. 売買目的有価証券及び一年内に満期の到来する社債その他の債券は流動資産に属するものとし、それ以外の有価証券は投資その他の資産に属するものとする。金融商品に関する会計基準(企業会計基準委員会・最終改正平成 20 年 3 月 10 日)
時価評価の必要性
ところで、この処理をする場合、簿記を勉強した方だと「売買目的有価証券なら時価評価しなくちゃいけないんじゃないの?」という疑問が湧くかと思います。
しかし今回の場合、あくまで会計上有価証券として扱っているだけであり、法人税法上の「短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的」という要件を満たしていませんので、法人税法上は売買目的有価証券には該当しません。
貸倒引当金のように、「中小企業の会計に関する指針」では法人税法による取り扱いに従うことがゆるされる場面がありますので、中小企業に限って言えば「法人税法上の売買目的有価証券ではないため時価評価はしていません」という説明が通る場合もあるように考えます。
(かなり強引ですが…。もちろん時価評価して税務上否認するのも一つです)
一応法人税法施行令も引用します。
(売買目的有価証券の範囲)
第百十九条の十二 法第六十一条の三第一項第一号 (売買目的有価証券の時価法により評価した金額)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる有価証券(第百十九条の二第二項第二号(有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式及び出資に該当するものを除く。)とする。
一 内国法人が取得した有価証券(次号から第四号までに掲げる有価証券に該当するものを除く。)のうち、短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的(以下この号及び次号において「短期売買目的」という。)で行う取引に専ら従事する者が短期売買目的でその取得の取引を行つたもの(以下この号において「専担者売買有価証券」という。)及びその取得の日において短期売買目的で取得したものである旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したもの(専担者売買有価証券を除く。)
[後略]法人税法施行令(e-Gov)
注意点
まあ自分でも「強引」と言っていますように、これは正直理論的に穴があります(^_^;)
ただ「金融商品に関する会計基準」と「法人税法(施行令)」だけを見れば一応それらしき説明はできますので、これをしないとどうにもならないような場面では、お客さまのために検討してみる余地があるのではと思い、載せてみた次第です。
まとめ
というわけで、
- 流動比率を改善するための基本的な考え方
- 資産のうち改善できる項目として、
- 役員への貸付金
- 長期前払費用
- (参考)有価証券
についてまとめました。
資産よりも負債のほうがケースとしては多いですが、もし該当するものがある場合には忘れずに見直しましょう!
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<あとがき>
・最初ブログを平日更新で始め、コンテンツ増やそうと思い一カ月ほど土日も毎日更新にして、もっとホームページの整備をしなきゃだめだと思い平日更新に戻したのですが、やっとブログのせいじゃなく自分の効率化が足りないせいだと気づきました。
・しょっちゅうある「日本初上陸」に今頃踊らされ、外苑前のシェイクシャックというハンバーガー屋さんへ行きました。中のパテ(なんでハンバーガーのなかに入るとハンバーグからパテという名前に変わるんでしょうね)が言うだけあってものすごくおいしかったです。