こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
サラリーマンの方で、「年末調整」という言葉を知らない方でも、
「12月や1月の給料でなんか知らないけどお金が戻ってくる」
ということを認識されている方は多くいらっしゃいます。
『社長もサラリーマンも必見!年末調整ってどういう仕組みなの?』でも解説したように、これは税金を精算することで多く取られていた所得税が戻ってくるのですが、時々、
「年末調整をしたら逆にお金を取られてしまった」
ということもまたあります。
こんなとき、
「従業員が嫌がるから、普段から少し多めに取っておきたいんだけどそんなことできる?」
という質問をお客さまから頂戴したので、こちらにもその内容を載せておきます。
源泉所得税はあえて多めに取っても問題ないのか?
「源泉所得税はあえて多めに取っても問題ないのか?」
この疑問に、まず結論を申し上げますと、
「合法とはいえないが、できなくもないのでは」
というのが私の意見です。
つまり、「従業員の合意をしっかり取っていれば、税金の話としてはまあ大丈夫なのではなかろうか」と今のところ考えています。
ただ、かなり小規模な企業を想定していますので、従業員が10人とか30人とかいる会社さんではやらないほうがいいのではとも思います。
また、税理士によって意見が分かれる可能性もかなりあります。
「年末調整による不足税額」が発生する理由
ちなみに、この「年末調整で逆にお金とられた」は、「年末調整による不足税額(年末調整不足額)」などと言ったりします。
そもそもなぜこんなことが起きるのか。
これは、
- 途中まで扶養家族がいたけど、途中で外れてしまった
- 「普段の給与は抑えておいて、賞与(ボーナス)をどかっと支払う」という方針の会社さん
などの場合に起きることがあります。
上のケースはイレギュラーなのでその年だけでしょうが、下のケースですと会社さんの仕組みがそうなっているので、毎年この問題が発生する可能性があります。
なので、特に下のようなケースだと「源泉所得税を多く取ることができるのか」を検討する必要が出てきます。
源泉所得税を徴収することの法的根拠 「何円」まで決まっている
そもそもこの「源泉所得税」、ざっくり言うと「会社が従業員から預かって税務署に払いなさいね」ということが法律で決められています。
さらには、たとえば「10万円の給料だったら710円取りなさいね」と、「いくら取るのか」ということまで法律で決められています。
(所得税法第185条、第186条、と別表)
根拠を書くとごちゃごちゃしてわかりにくくなってしまうので詳しく載せませんが、「いくら」ということが法律で決められている以上、たとえば上の10万円の給与であれば、
「多めに800円取ろうと、少なめに600円取ろうと、710円以外は法に則った処理とは言えない」
ということは言えるでしょう。
これが上の結論の部分で「合法とはいえない」と言った理由です。
源泉所得税を多く徴収することで起きる問題特にない説
しかし「適法かどうか」を考えるのも重要ですが、実務を行ううえで
「じゃあ多めに800円取ったとして、何かまずいことが起きるのか?」
という観点も重要なところです。
しかしこれ、「多く取ったところで税務署から咎められることもない」んじゃないかというのが私の考えです。
(あくまで筆者の谷口個人の意見です)
源泉所得税には、通常
- 不納付加算税 ⇒ 期限までに払わなかったときに発生する罰金
- 延滞税 ⇒ 期限のあとに払ったときに、利息的な感じで発生する罰金
という2つの罰金があります。
(法律的には「罰金」ではありませんが、わかりやすさを重視してこのような表現としています)
これ、あくまで「払わなかったこと」「少なく払ったこと」を想定していますので、この2つは源泉所得税を多く取った場合に発生する罰金ではありません。
つまり、「多く取った場合に発生する罰金はない」ということになります。
また、税金としては一旦多く払うわけなので、冒頭で書いたような「従業員が嫌がるから」「従業員の要望があったから」といったような理由であれば、「脱税しよう」などという不正な意図も行為も皆無です。
なので、万が一税務調査で「なんで多く取ってるの?」という指摘をされたとしても、理由をきちんと説明すれば、
- 「ああそういうことね」と何も言われない
- 「まあ、法律の決まりもあるから、今後はちゃんとした金額で取ってね」と言われる
という程度で済ませることができるのでは、と考えています。
(注意点)従業員への影響と、同意の必要性
なお、年末調整のときに1年間の税金を精算しますので、一時的に多く取ったとしてもトータルで見ればその個人が損をすることはありません。
ただ日々の手取りは少なくなりますので、従業員の同意をきちんと得ることが大前提です。
従業員の給与はかなり法律で守られており、経営者の一存で不利益になるような変更はできません。
この話は、中小企業の中でも小規模な企業を想定しており、なおかつあくまで「税金の面から見た話」であることはご了承くださいませ。
たとえば従業員へのいやがらせのような不正な目的で、従業員の同意を得ずに or 同意を強要して源泉所得税を増やした場合、労働法関係の法律違反になると考えられます。
この場合は明確に経営者なども処罰されるので絶対にやめましょう。
まとめ
というわけで、
- 源泉所得税を多めに取るのは合法とはいえない
- ただ多めに取ったとしても、罰金が発生するわけでもないし、しっかり従業員との合意が取れていれば税金の面ではそこまで大きな問題は起きないのでは
という内容をまとめました。
上でも書きましたが、完全に法律どおりとは言えないため、税理士によっては「そんなのダメだ」と言われる可能性はあります。
ただまあ個人的には、脱税をする意図ではまったくないし、マイナスの影響もなさそうだし、これぐらいは「柔軟な対応」の範囲と言えるのでは、というのが私(筆者の谷口)の考えです。
ちなみに、「普段から多めに源泉所得税を取る」という対応のほか、「賞与のときに多めに源泉所得税を取る」という対応もあり得ます。
理論的にはほとんど変わりませんので、「どっちもOK」と私個人は考えています。