こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
高い金額の機械などを買ったときに、税理士からこんな言葉が出てきたことがあるかもしれません。
「特別償却にしますか? 税額控除にしますか?」
そんなときに、
- 何がどう違うのか、正直全然わからん
- 税理士に聞いたら「とりあえず税額控除でいいんじゃないですか」としか言ってくれない
とご相談に来てくださった方からお聞きしたので、そんなお悩みをお持ちのあなたに向けて、「どう違うのか」や「どんなときに使い分けたらいいのか」を、図を使いながらざっくりと解説していきます!
資本金3,000万円以下の中小企業を前提に書いていますので、ご注意くださいませ
目次
特別償却・税額控除の大前提「ものを買ったとき」
まず大前提となるのが、この特別なんちゃらが関係してくるのは、比較的高額のものを買ったときに限られるということです。
なかなか入れ替わりの激しいこの税制のなかで、長らく続いている代表的な制度が「中小企業投資促進税制(機械バージョン)」なのですが、たとえばこの制度で言うと、
- 工場で使うような機械 1台160万円以上
- ソフトウェア 70万円以上(合計でもOK)
などのように数十万円以上のものが対象となってきます。
ほかの制度を含めると 最低でも30万円以上の固定資産を買ったとき でないと対象にならないんだな、というのはぼんやり覚えておくといいでしょう。
特別償却・税額控除は種類も要件もいろいろある
当記事の趣旨ではないので細かくは説明しませんが、この「特別償却」「税額控除」を受けられる制度は種類も多く、
- 中小企業投資促進税制(新品の機械うんぬん)
- 中小企業経営強化税制(経営力向上設備・生産性向上設備・収益力強化設備うんぬん)
- 商業・サービス業・農林水産業活性化税制(経営改善設備うんぬん)
というようなものが2018年4月時点で言うとあります。
税制改正というのは毎年いろいろあるのですが、その中でもかなり入れ替わりのあるのがこのあたりの制度です。
「機械じゃないとダメ」「建物の内装でもいいよ」「新品でないとダメ」「計画の認定を受けないとダメ」
といった条件が、その制度によってそれぞれ細かく決められています。
対象になる指定事業をざっくり表に
さらにその要件のひとつとして、この制度を利用できる事業が限定されていることがあります。
上で書いた「中小企業投資促進税制」もそうなのですが、これを「指定事業」といいます。
(以前は限定のない制度もありました)
「指定」と言いつつ対象は結構広いものの、たとえば不動産業が使えないなど、「一般的な事業だったら大丈夫」と一概に言えるものでもありませんので、「自分の事業が対象になるか」はなんとなくでも把握しておくとよいでしょう。
国税庁のwebサイトからコピペしつつ、多少入れ替えてあるので、正確に知りたい方は元のページも見てみてください。
◯ 使える | 製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、情報通信業、駐車場業、損害保険代理業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、映画業、教育、学術支援業、医療、福祉業、協同組合及びサービス業(廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業、職業紹介・労働者派遣業、その他の事業サービス業) |
✕ 使えない | 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ等、不動産業、物品賃貸業、電気業、水道業、娯楽業、性風俗関連特殊営業に該当する事業 |
※ 一見◯の中にあっても、✕にあったらダメ、と考えてください
「特別償却」「税額控除(特別控除)」の全体像
というのが、この「特別償却」などの前提条件でした。
では、ここからは「1,000万円かけて販売システムを構築した」という事例があったものとして解説を進めていきましょう。
(この場合「ソフトウェア」という勘定科目になります)
このような比較的高額の固定資産を買い、それが上記制度の対象になるものだった場合には
- 特別償却
- 税額控除
のどちらを受けるかを検討していくことになります。
この2つの違いを中心に、
- 特別償却とは?
- 税額控除とは?
- どっちを選んだらいいの?
という順番で、ざっくりと解説していきます。
特別償却とは? 計算方法をざっくり図解
まず特別償却から見ていきましょう。
「特別償却」というのは、名前のとおり「特別な減価償却」ということです。
そもそも「減価償却ってなに?」というところがわからないと、ここは理解できませんので、わからない方はこちらをご参照ください!
まず、とある会社さんが1,000万円かけて販売システムを構築しました。
すると、会社の「無形固定資産」に「ソフトウェア」という勘定科目が1,000万円のっかってくることになります。
話を単純にするため、1年のはじめからこのシステムを使いはじめたことにしましょう。
すると、
1,000万円 ÷ 5年 = 200万円
で、200万円が減価償却費として会社の経費に計上されることになります。
通常はここでおしまいです。
このあとの4年間で、同じように1年ごとに200万円ずつ費用にしていくだけです。
しかし、一定金額以上の固定資産を買った場合には「特別償却」という特典を受けることができます。
「特別償却」にも種類があるのですが、今回の事例だと「30%追加で減価償却してもいいよ」と認めてもらえるのが特別償却、ということになります。
なので、
- 通常の減価償却費 200万円
- 特別償却費 300万円
で、合計500万円を1年で費用にすることができる、ということです。
この「通常の減価償却費」を、特別償却のときはわかりやすく区別するために「普通償却額」と言います。
普通償却額は、例だと1年丸々計上できていますが、決算の月に急いで購入したものだと「1年分 ÷ 12カ月分」しか費用にすることができません。
しかしこの特別償却には月で割る、というような考え方がありませんので、そういうときでも有効活用することができます。
特別償却不足額とは 1年間繰り越せる!
また、特別償却は1年間だけなら繰り越せるという特徴があります。
考えられるのが、特別償却費として300万円計上できるけど、300万円計上したら赤字になってしまう、というパターン。
こういうときは、
- 今年 ⇒ 特別償却費として100万円を計上
- 来年 ⇒ 好調だったら残りの200万円を計上
という柔軟な使い方をすることも可能です。
この繰り越した200万円を「特別償却不足額」といいます。
法人税の申告をするときの「別表」という紙に「いくら繰り越すのか」を記載する必要があるのですが、これは税理士さんに依頼してしまったほうが早いでしょう。
↓ 別表というのはこんな感じの書類です(抜粋)
特別償却費の会計処理 必ず「特別損失」に!
実は特別償却の会計処理(経理のしかた)には種類があるのですが、説明すると複雑になってしまうので覚えておいていただきたいことをひとつだけに絞っておきます。
それは、もし計上するときは「特別償却費」を特別損失に持っていくべき、ということ。
(「特別損失」が何かは『費用の中から特別損失を探そう! 特別損失とは』で書いております)
先ほどの例の、
- 普通償却額(通常の減価償却費) 200万円
- 特別償却費 300万円
をどう処理するかをケースごとに見てみましょう。
↓ まず特別償却費を分けずに合計した場合
このように、特別償却費と普通償却額をただ合計してしまうことで、実態以上に営業利益が悪くなってしまいます。
特別償却費は、毎年利用するような会社さんでなければめったに出てこないものですから、特別損失という扱いにしないと「この会社は利益が出せないんだな」という印象を銀行などに与えてしまうことにもなりかねません。
ではどうすればいいのか。
↓ この下の画像のように、
特別償却費を、「特別損失」として普通償却額と別に表示するだけ で、決算書の見た目を改善することができます。
普通償却額と合計して表示してしまう税理士さんは結構多いので、そのときは「特別損失に持っていけないんですか?」とひと言聞くようにしましょう。
特別償却費は「特別償却準備金」として純資産に計上する方法もある
ちなみに、このほか「特別償却準備金」という勘定科目で処理する方法もあり、このほうが会計処理として正しいうえに、利益も悪化しません。
ただ税理士事務所でこの処理をしているところは少なく、やっていることがなかなかに複雑で経営者の方の理解を超えてしまうところもあるので、「特別償却をすると利益がマイナスになってしまうけど、どうしても特別償却は受けておきたい」というときに活用するのもひとつの方法です。
とりあえず税理士さんに「よくわかんないけど、特別償却準備金ってやつでできないの?」と振ってみるのもひとつですし。
私は一時期「これいいじゃん」と思って使ってましたが、7年ぐらい引っ張りますし、場合によっては税金が増えてしまう期が出てくる可能性もある(トータルすると一緒なんですが)ので、ひととおりご説明してみて「?」という反応であれば現在無理にはおすすめしていません。
税額控除とは? 計算方法をざっくり図解
さて、というのが特別償却というものの説明でした。
次に「税額控除」について見ていきましょう。
税額控除というのは、名前からなんとなく察しがつくかもしれなせんが、要は税金が安くなる制度 です。
さっきとまったく同じように、とある会社さんが1,000万円かけて販売システムを構築したとしましょう。
すると、会社の「無形固定資産」に「ソフトウェア」という勘定科目が1,000万円のっかってくることになります。
するとまったく同じように、200万円が減価償却費として会社の経費に計上されることになります。
ここまでは特別償却とまったく同じ。
税額控除の違いはここからで、いくつか種類はあるのですが、今回の事例だと「買った金額の7%分の税金を安くしてあげるよ」というのが税額控除 です。
- 特別償却 ⇒ 通常の減価償却費にプラスして、さらに償却費を上乗せしていいよ、という制度
- 税額控除 ⇒ 通常の減価償却費とはまったく別に、法人税等を約7%安くしてくれる
というのが、ざっくりとした効果の違いです。
・特別償却は経費が増える(決算書に出てくる)
・税額控除は経費には影響がない(決算書には出てこない)
という言い方もできます。
※ この7%と連動して、地方税の一部も安くなるので実際は7%以上の効果があるのですが、まあ「7%ちょっと」と覚えておくとよいでしょう。
税額控除の注意点1 税額控除には上限がある
税額控除には少し注意点があるのですが、1つめは 法人税の20%が上限になってしまう、というものです。
これもざっくりとした図を使って解説してみます。
まず、法人税を計算したら200万円だった会社さんがあるとします。
この200万円の法人税に20%をかけます。
すると、
200万円 × 20% = 40万円
です。
この 法人税 × 20%をした40万円と、税額控除の金額(買った金額の7%等)を並べてみます。
比較して、小さい40万円が実際に法人税が安くなる金額 になります!
これが1つめの注意点、法人税の20%が上限になってしまう、です。
「法人税が70万円なのに、70万円全額安くなるのはちょっと勘弁してください」というのが税務署の言い分、というところでしょう。
(個人的には「条件満たしてるんなら引かせてくれよ」と思いますが)
税額控除の注意点2 引ききれなかったら1年繰り越せる
というのが注意点なのですが、そうすると、70万円のうち引けなかった30万円 はどうなるのでしょうか?
「はい、残念でした~」
で終わりなのでしょうか…?
いえ、安心してください。
この差額の30万円は、1年間繰り越すことができます。
なので、もし来年また利益が出たら、その税金を安くすることができる、ということですね。
(「法人税の20%の上限」はやはりありますが)
「赤字で税金なし」「固定資産は買った」という年は注意
さらなる注意点として、一番気をつけなければいけないのが、
- 赤字で法人税は出なかった(繰越欠損金を使って税金は出なかった)
- 税額控除を受けられる固定資産は購入した
の両方に該当する年です。
これ、税理士事務所でも忘れがちなのですが、1年繰り越すためには買った年に「税額控除を受けますよ」という申告をしている必要があります。
なので当期に税金が出ていなかった、という年であっても、税額控除を受けられる固定資産を購入しているのであれば、必ず検討するようにしましょう。
(繰越欠損金が大量に残っていて、どうひっくり返っても税金が出ない場合もありますが)
税額控除の注意点3 正式名称は「法人税額の特別控除」
これは余談です。
私はこの記事の冒頭からくりかえし「税額控除」と言っていますが、この制度、本当の名前は「法人税額の特別控除」といいます。
ただ私は、
- 特別償却
- 特別控除
と、「特別」が並ぶとややこしくなるので、混乱を避けるために「特別償却」「税額控除」と呼び分けるようにしています。
正式名称は「特別控除」なので、「正しいものが好き」な傾向がある税理士さんは「特別控除」と呼ぶこともよくあります。
そんなときは、大変お手数をおかけしますが頭のなかで「税額控除」に変換してあげてください。
(そんなん言いつつ私もポロッと言っちゃうことがあります)
特別償却と税額控除はどっちを選んだらいいの? 基本は「税額控除」!
というのが、
- 特別償却
- 税額控除
の計算方法や、仕組みの違いでした。
「これにておしまい!」としてもいいのですが、おそらく経営者の方が知りたいのは、
「で、うちはどっちを選んだらいいの?」
ではないでしょうか。
いきなり結論から言うと、基本は税額控除を選んでおいたほうがお得 です。
特別償却と税額控除だったら、原則税額控除を選ぶ
どうして税額控除のほうがお得と言えるのか。
それは、計算のしかたの違いに秘密があります。
おさらいになりますが、特別償却は追加で費用にすることができる、というものでした。
その一方、税額控除は減価償却費とは別に法人税が安くなる、というものでした。
上では詳しく書きませんでしたが、特別償却は減価償却費を早めに計上しているだけで、特別償却を受けても減価償却費の合計が増えるわけではありません。
・通常の減価償却費 1,000万円 + 特別償却 300万円 = 1,300万円償却できる!
とかだったらいいのですが、
・5年で1,000万円を費用にするところ、早めに1,000万円費用にできた!
というだけであるのが実際のところです。
なので、特別償却の場合はトータルで見た税金は変わらない、ということになります。
(5年間の税金の合計が、基本的には「特別償却を受けた場合」と「受けない場合」で同じになる)
その一方、税額控除は減価償却費にさらにプラスして法人税が安くなる制度 です。
トータルで見てもきちんと安くなるのが税額控除、ということですね。
そのため、原則として税額控除を選んでおいたほうが得、というのが大多数の会社さんに該当するところです。
例外的に特別償却のほうがいい場面もある!
なので基本的には税額控除を選んでおけば、損得で言えばお得になるはずです。
ただ一部例外もあって、特別償却のほうが有利になる状況もときどきあります。
- 当期例外的に莫大な利益が上がってしまい、翌期以降は利益があまり見込めないので、当期のうちに少しでも費用を計上しておきたい場合
(特に利益が800万円を超えるようなら、トータルで見ても税金が安くなるケースがあります) - ここ1~2年は利益の計上が見込めないものの、それ以降は利益の計上が見込める場合
(先に費用を計上しておくことで、将来利益が出たときに過去の赤字をぶつけることができます)。 - 繰越欠損金が多額にあり、1~2年では使いきれないが、それ以降は使いきれることが見込める場合
(上と似たケースです。ただ繰越欠損金を使いきれない場合にも注意が必要) - 安定して利益を出す必要があるものの、固定資産が多く、通常の減価償却費の負担が重い場合
といった状況ですね。
まあ「見込み」はかなり難しいものがあるので、真ん中の2つは判断が難しいところですが、
「とにかく税額控除!」
「とにかく特別償却!」
といったことを決めずに、税理士さんと相談するなどして、会社さんの状況に応じた柔軟な判断をされることをおすすめします。
まとめ 税額控除と特別償却を状況に応じて使い分けるとよいよ
というわけで、かなり長くなってしまいましたが、
- 特別償却とは? ⇒ 早くたくさん減価償却できる!
- 税額控除とは? ⇒ 減価償却とは別に税金を安くできる!
- 基本は税額控除を選べばOK!(でも特別償却のほうがいいときもあるよ)
という内容をざっくり図解でまとめてみました。
税金に関することは全般的にそうですが、「絶対に、いつ誰であってもこの方法をやっておけばいい!」という単純明快な仕組みにはあんまりなっていません。
わからなければ納得いくまで税理士に相談して、後悔のない判断をするようにしましょう!
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<余談>
当記事は、2016年7月、ブログ開設当初に書いたものを大幅に書き直したものです(ほぼ一から)。
当時は図解に重きを置いていなかったのと、むだに2記事に分けていて見にくかったので、「修正したい」と思っていたのをようやく書き直せました。
今後リライト(書き直し)も地道にやっていきたいなーと思っておりますです。
⇒ 【目次ページ】超入門編のブログ記事一覧
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